腰痛について

腰痛は国民病』と言われるほど多くの人が経験する症状です。その原因は筋肉や筋膜の損傷、椎間関節や仙腸関節など関節の炎症、椎間板の損傷、神経の刺激や炎症など様々です。

しかし、画像検査や理学的検査(問診や触診など)で症状の原因が説明できるものは全体のわずか15%との報告があるように腰痛の診断が容易でないことがわかります。ではなぜこのようなことが言われるのでしょうか?

その理由は次のようなことが考えられます。

①慢性的な腰痛の原因となる筋肉、関節、椎間板、靭帯などの比較的軽微な損傷は画像に映りにくいこと
②もう一つは画像で判断できないものほど触診や理学的検査が必要となりますが、軽微な組織の異常を見つけ出すには細かい徒手的な技術が求められること。

そのため腰痛の原因を明らかにするには画像だけに頼らず、実際に患部に触れ、動かすことで損傷組織を特定する理学的検査をしっかりと行っていくことが重要となります。
 
腰痛発生の要因(メカニズム)』としては、中腰作業、運転や事務作業など長時間の坐位保持、重量物の持ち上げ動作などが挙げられます。これは前かがみ姿勢や座っている状態は、背筋の緊張が高まると同時に椎間板内圧が増加するため椎間板にかかる負担が大きいことが原因と考えられます。病院を受診した場合、腰痛のみであれば『筋筋膜性腰痛症』や『腰椎椎間板症』、坐骨神経痛を伴う場合であれば『椎間板ヘルニア』と診断されるかもしれません。一方加齢に伴い脊柱管という脊髄神経の通り道が狭くなり、歩行や身体を反らしたときにその中を通っている神経が圧迫されて痛みを引き起こす病気を『脊柱管狭窄症』といいます。その他にも椎骨が前後にズレてすべっている状態を『すべり症』、若年者のスポーツ障害の頻度の高い腰椎の突起部分が疲労骨折のように折れ分離した状態を『分離症』といいます。腰痛の病態は様々ですが、身体的特徴として股関節、仙腸関節、胸椎などの腰周辺の機能障害が腰椎への過剰な負担を引き起こしているケースが多く存在します。腰椎自体にも不安定性や関節の偏位(ズレ)などがあることから筋肉や関節が正常に働いているかを詳細に評価する(機能評価)ことにより発生要因を明らかにすることができます。

アプローチ

じっとしていても激しい痛みがある時期を『急性期』といいますが、骨折や脊髄神経に深刻なダメージや炎症が生じていることがありますので、このような場合は医師の診断のもと適切な治療を行うことが最も安全な方法と言えます。適切なケアが行われれば多くの急性腰痛は治癒に向かいます。しかし、関節や筋肉の硬さや不良姿勢などをそのままにしておくと腰痛は慢性化しやすいため繰り返す腰痛や長引く腰痛には『再発予防も考慮に入れたアプローチ』が必要となります。実際のアプローチは、『モビライゼーション』という徒手療法のテクニックを中心に行っていきます。その効果は筋・筋膜の緊張緩和、関節の可動域改善や位置矯正、神経の緊張緩和などがあり低下している組織や関節の機能回復をはかるものです。例えば、第4腰椎と第5腰椎の間からでる坐骨神経の圧迫が原因で脚や腰に痛みが場合、その周辺の股関節や仙腸関節や他の胸・腰椎の関節などの動きを改善することで患部にかかるストレスを軽くすることができ、ひいては坐骨神経の症状を緩和につながります。さらに筋力低下が症状に影響している場合にはトレーニングを行っていきます。関節を支える力を高めることは、痛みの改善に大きく貢献することが多く、そのためには深層筋と表層筋をバランスよく働かせる特殊なトレーニング法を用いる必要があります。関節の動きが改善し、さらに筋力による支え(=支持性)が備われば、多くの場合症状は緩和に向かいます。
腰痛一つとっても、この疾患の場合こうすれば治るという決まった方法はなく、いくつもの要因が複雑に絡み合って症状を引き起こしているので色々な可能性を想定しながら状況に応じてアプローチを試す必要があります。効果のあるアプローチ方法は一つではありません。それゆえにどうしても楽な手段を選択しがちですが、受動的な施術だけでなく、セルフストレッチや体操など少し体を動かすことを生活の中に取り入れる意識こそが最も大切なことだと思います。

以上、今回も長々と述べさせて頂きました。最後まで読んでいた方ありがとうございました!